難解なベースアップ評価料
2026年5月。医療業界は診療報酬改定真っ最中。私も開業医なので、もちろん診療報酬改定への対応を迫られている。
診療報酬の改定とは、病院やクリニックが医療サービスを提供した対価として受け取る「診療報酬(点数)」を、政府が原則2年に1回(薬価は毎年)、社会情勢に合わせて見直す制度。要するに国が医療の値段を変更する。
さて、診療報酬改定だが、今回の目玉の一つはベースアップ評価料だろう。従来からベースアップ評価料を取得していた医療期間はさらなる賃上げを、そうでない医療期間は一刻も早く賃上げせよ、という国からのメッセージである。
ベースアップ評価料とは
ざっくり言うと、国からお金あげるからそれを全部スタッフに分配せよ、というもの。
①厚生局に届出(施設基準)
②OKもらえたら、診察する患者さんの報酬が増える
③ベースアップ評価料で増えた分はすべてスタッフへ給与として支払う
上記3点セットである。
これだけ見れば、スタッフの昇給を国が背負ってくれるんだから良いじゃん!と思われるかもしれない。
しかし、実際は異なる。
全体で見れば診療報酬は下がる
診療報酬は下がる。
当たり前だ。日本はこどもが少なく、高齢者が多い。医療を受ける人の多くは高齢者で、医療費のもととなる社会保険料は働く世代が支払う。つまり、高齢者を支える人がどんどん減っている。日本は国民皆保険と言って、全員が国の保険に加入しているため、若い世代の生活が社会保険料でどんどん圧迫されてしまう。
診療報酬は別にいじわるで下げられているのではない。下げざるを得ないのだ。
一時期、Xなどで「診療報酬を下げてみろ。困るのは看護師や事務だ。開業医は事業主だから自分のお金は減らさないぞ!」というコメントが散見されていた時期がある。
国の役人たちも同じようなことを考えたのであろう。それを潰すために、ベースアップ評価料という施設基準を作成した。ベースアップ評価料を採択する医療期間が増えればスタッフの給料は確保される。
今後の流れ
ベースアップ評価料は令和8年、9年は拡充されることが決まっている。
おそらく、今後もベースアップ評価料は拡充されていく流れだろう。
そして、少子高齢化が止まらない日本では、診療報酬も減っていくだろう。
そのため、スタッフに配る分のお金は医療機関に入ってくるが、手元にお金は残らない。国立の大学病院や公的医療機関であれば問題はないだろう。しかし開業医としては困る。借金や破産のリスクを背負って開業しているのだ。相応の報酬がなければやってられない。
ではどうする
まず、ベースアップ評価料は基本給に反映させなくても良いこととなっている。基本給以外の固定の手当であれば問題ない。特別手当などと銘打って、ベースアップ評価料分をスタッフの給与に充当する。
これは必須である。梯子外しという伝家の宝刀が国にはあるからだ。まず、診療報酬をあげる。そして医療機関がそれに乗っかってきたら報酬を下げる、あるいは廃止する。
今回もベースアップ評価料を算定するからスタッフの給料をあげよう、と素直に基本給であげてしまうと、いざ国がベースアップ評価料を廃止した時に上がった基本給を払うのに四苦八苦する。もしかしたらそれが原因で潰れるかもしれない。固定の手当で支給していればその手当を減らしたり、廃止することで廃業を避けられる可能性がある。
ベースアップ評価料を算定する場合は必ず固定の手当で支給する。これは全開業医に知っておいてもらいたい。
そして次に、新しく募集をかける際の基本給を下げる。基本給は下がるけど、ベースアップ評価料の手当があるからトントン、あるいは少し高めの給与を提示できる。
もちろん、今いるスタッフとの間に差が生まれてしまう。しかし、長い目で見れば、退職しないスタッフはいない。差がある期間も以外と長くないのではないか、と思う。そうすることで、廃業のリスクを下げられるし、スタッフにはしっかり給料を払うことができる。さらに、ベースアップ評価料の固定手当は業績に連動するようにしておけば、クリニックの業績に対してスタッフ自身が自分ごとと捉えるようになる。
これが現時点で、私が考える、ベースアップ評価料との最適な付き合い方である。
懸念点
2026年5月現在、ベースアップ評価料は3.2~5.7%程度の昇給を目指している。これはノルマではなく目標値とのこと。達成できなくても良いと。
しかし、これは近い内にノルマになると思う。ノルマになると、基本給を下げる方法が使いにくくなるかもしれない。
また、何も考えていない医療機関がベースアップ評価料分、医療従事者の給料をどかどか上げていく可能性がある。給料というのは相場で決まるので、競合の医療機関がそのように対応されるとかなり厳しい。こちらも上げざるを得ないだろう。
いずれにせよ、開業医として最低なのは「ベースアップ評価料を算定しないで放置すること」。国はこの施策にかなり力を入れている。資料を見ればそれがわかる。わざわざ図解して、「わかりやすい説明資料」などというものまで作成して、メールでの届出を可能にして・・・
おそらく、今回の診療報酬改定で最も力を入れているところだろう。(在宅の集約化、医療DXなど他にも力を入れていそうなところはあるが)
国がやりたいのは、「医療関係者の給料を下げずに、開業医の収入を下げること」。これは間違いない。日本の医療において報酬の分配が不均等だと感じているのだろう。
まとめ
・ベースアップ評価料は算定しろ。無床診療所であっても、だ。
・基本給ではなく、固定の手当で支給しろ。
・固定の手当分、基本給を下げて募集しろ。
これが今後の医療業界で開業医が生き残る手段だと思う。かなり厳しい戦いが予想されるが、この記事を読んだ人の中にもし開業医の先生がいたら、一緒に生き残ろう。
